所有者が行方不明でも不動産売却できる⁉
コーラルに以下のご質問が有りました。
私は、3年前、夫と離婚しました。今は、その離婚した夫名義のマンションに子ども2人と住んでいます。家賃は払っていません。夫が養育費を払わない代わりに私と子どもたちはマンションから引っ越さずに住んでいいとの約束をしたからです。ただ最近になって銀行から、『夫が借りている住宅ローンの滞納が有り、支払ってくれ』という督促状が来たのでびっくしています。そこで元夫に連絡を取ろうとしたのですが、どうしても連絡が取れず、元夫実家にも相談したのですが、夫実家も元夫の所在はわからず行方不明と言うので困っています。行方が分からないのは本当のようです。
相談したいのは、今住むマンションは私名義(妻所有権)の部分が10分の1あるのですが、元夫がこのまま音信不通で、どこで暮らしているのか、そもそも生きているのかも分からない場合、マイホーム(今住むマンション)の売却は出来るのでしょうか?銀行に聞いたらこのまま滞納が続くと競売になる可能性が高いというのです。行方が分からない元夫の持分を含めてマイホームを売却ができればいいなと思っていますができますか。
なお、住宅ローンを返済できるほどの余裕は無いのでできれば売却して解決できたらと思っています。
というものです。
何が問題⁉
ご質問者のマンションは元夫婦の共有名義(夫と妻が双方で所有する)物件だということです。この場合、元夫が行方不明だと元妻が所有する持ち分10分の1は元妻の意志で売却できるのですが、ただ元夫持ち分の10分の9は勝手に売却できないことになります。
共有者の1名が行方不明&音信不通で、どこで暮らしているのか、そもそも生きているのか分からないとき、それを理由として、その共有者の共有持分を勝手に売却はできないのです。
所有者行方不明時に対応する不動産売却方法
所有者行方不明の物件を売却する際には、いくつかの手続きが必要です。
まず不在者財産管理人制度の利用で、所有者の代理人を立てることができます。この代理人は、売却手続きや管理を行う役割を担います。また、失踪宣告の利用で、一定の条件下で所有権を移転も可能になります。
さらに、所在等不明共有者持分取得制度や所在等不明共有者持分譲渡制度の利用で、共同所有者による持分の取り扱いが簡素化されます。これらの手段があるため、所有者が行方不明でも不動産売却は実現できます。
所有者行方不明の不動産売却におけるリスク
所有者が行方不明の不動産を売却する際には、いくつかのリスクが考えられます。
まず、法的手続きの複雑さがあります。不在者財産管理人や失踪宣告の手続きには専門知識が必要で、手続きが長引く可能性もあります。
次に、潜在的な不利益もあります。行方不明の所有者が突然現れた場合、不動産の所有権を主張され、売却が無効になる危険性があります。
これらのリスクを理解し、専門家の助言を受ける事で、円滑な売却につながります。
不動産共有者の失踪による管理負担
不動産を共有している場合、一人の共有者が失踪すると、残りの共有者に管理が大きな負担となるケースがあります。特に、失踪した共有者に対する権利や責任をどのように扱うかが問題です。
例えば、共有物の維持管理や賃貸契約の更新が必要になる際、失踪した所有者の意思確認ができないため、意思決定が難航します。このような状況では、適切な手続きを踏むことが求められます。
所有者行方不明の管理負担では専門家の意見を取り入れ、法的手続きや管理方法の確認が、円滑な不動産管理につながるでしょう。
相続による権利関係の複雑化
相続により権利関係は非常に複雑化するケースがあります。特に、所有者が行方不明の場合、相続人の特定やその権利の確認が難しくなります。
相続人が多岐にわたる場合、各人の承諾を得るために手間や時間がかかる場合があります。また、相続分の調整や持分の問題も発生するため、事前に専門家の助言を求めることが重要です。
適切な手続きを講じることで、不動産の売却は円滑に進み、リスクを最小限に抑えることができます。
◎ こんなことも・「特定空き家」に指定される恐れ
「特定空き家」とは、適切に管理されず、周辺に迷惑をかける状態の空き家を指します。所有者が行方不明で物件が放置されていると、自治体によって特定空き家に指定されるリスクが高まります。
特定空き家に認定されると、固定資産税の増額や強制的な整備命令が出されることがあります。これにより、所有者や相続人に思わぬ負担がかかるため、適切な手続きや管理が重要です。
このため、所有者行方不明の不動産は早めに売却を検討し、リスクを最小限に抑えることが望ましいです。
行方不明の不動産所有者を探すための方法
行方不明の不動産所有者を探すための方法はいくつかあります。まず、地元の役所や登記所に問い合わせることが有効です。住所変更や転居履歴が記録されていることがあります。
次に、親族や知人に相談し、所有者の最近の動向や連絡先を確認してみましょう。また、SNSやインターネットを活用して情報を集めることも一つの手段です。
最後に、必要に応じて専門の調査会社に依頼することも検討してください。正確な情報を得ることで、スムーズな売却手続きにつながります。
登記簿での確認方法
登記簿は、所有者を特定する重要な情報源です。まず、法務局で登記簿謄本の取得しましょう。登記簿には所有者の名前や住所が記されています。
登記簿の確認手続きは比較的簡単で、窓口で申し込みできます。オンラインでの取得も可能ですので、便利な方法を選ぶと良いでしょう。
なお、登記情報には古い住所が記載されている場合がありますので、最新の情報を把握することが大切です。正確な情報を基にした行動が、所有者探しをスムーズに進めるポイントです。
弁護士を通じた住民票・戸籍の取得
行方不明の所有者についての情報を得るために、弁護士を通じて住民票や戸籍を取得する方法があります。弁護士は法律の専門家であり、手続きに精通していますので、安心して任せることができます。
まず、弁護士に依頼することで必要な書類や情報を整理し、住民票や戸籍の請求を行うための準備を進めてもらいます。所有者が行方不明の理由や期間に応じた適切なアプローチを提案してくれるでしょう。
また、弁護士はプライバシーに配慮しつつ、必要な情報を入手するための法的手続きを踏むことができます。これにより、迅速かつ適切なる所有者の所在確認が期待できます。
所有者行方不明時の不動産売却手続き
所有者が行方不明の場合の不動産売却には、いくつかの手続きが必要です。まず、所在不明の所有者に代わって不動産を管理するための不在者財産管理人を家庭裁判所に申請することが大切です。
次に、失踪宣告を行うことで、法律的に該当不動産の所有権移転が可能になります。この手続きには一定の時間がかかるため、早めに行うことが重要です。
また、共同名義の場合は、所在等不明共有者持分取得制度を利用すれば、共有名義者の持分取得ができます。ゆえに売却は一応可能とはなります。
不在者財産管理人制度の活用
不在者財産管理人制度は、所有者が行方不明の場合にその不動産を管理・売却するための重要な手段です。この制度を利用することで、家庭裁判所から選任された管理人が、所有者に代わって不動産の処分を行うことができます。
まずは、家庭裁判所に申し立てを行い、不在者財産管理人の選任を受ける必要があります。この管理人は、不動産の維持管理や必要な手続きを行う権限を持ちます。さらに、管理人が不動産を売却する際も、所有者の権利を尊重した行動を求められます。
この制度を活用することで、所有者が行方不明でも、適切な手続きを踏んで不動産の売却が可能になります。
ただ、不在者財産管理人が不動産を売却するには裁判所の許可を得なければなりません。実はここからが問題ですが、不在者財産管理人からの許可申請が有ったからと言って裁判所が不動産の売却を許可するとは限らないということです。特に、不動産の価額の変動が激しいときには、直ちに売却しないと不在者に不利益であると認められる特別な事情がない限り、不動産の売却は許可されない可能性が相応にあるのです。
失踪宣告の手続き
失踪宣告の手続きは、所有者が行方不明であることを法律的に証明する重要な手段です。まず、家庭裁判所に失踪宣告の申立てを行います。この際、所有者が行方不明となった理由や期間について詳しく説明する必要があります。
次に、所在不明の所有者の人柄や生活状況を示す証拠を提出します。例えば、連絡が取れないことを示すメールや電話記録、目撃情報などが有効です。裁判所がこれらの情報をもとに判断し、失踪宣告が認められると、所有権の移転手続きが可能になります。注意深く進めることが求められます。
ただ今回のご質問の件では、この失踪宣告の手続きは利用できません。失踪宣告の手続きは所在不明の人が所在不明になってから7年経過していない場合、失踪宣告を利用することはできないからです。
以上で解説したように、今回のご質問では、不在者財産管理人制度や失踪宣告は現実的に利用できない制度と言えます。。
所在不明者の持分売却は諦めて、自分の持分のみの売却はできます。もっとも自分の持分のみの売却では、売却額が、不動産全体の価額を持分割合によって案分した価額よりも極めて低額になることが多いのです。しかも住宅ローンは元夫名義なので、元妻が連帯保証人になっていれば元妻が全額返済できますが、しかし、今回はそれも現実的ではないので難しいて言えるでしょう。
ではどうするか?以下では令和5年4月1日から新しく施行された制度『所在等不明共有者持分取得制度と持分譲渡権限付与制度』の手続き概要、必要な情報を詳しく解説します。
この制度利用で今まで解決できなかった所在等不明共有者のいる不動産問題が解決できるかもしれません。
下記では簡単に解説しますが、もっとこの制度を知りたい方は ☛所在等不明共有者持分取得制度と持分譲渡権限付与制度とは? をご参照ください。
所在等不明共有者持分取得制度
所在等不明共有者持分取得制度は、行方不明の共有者の持分を取得するための制度です。この制度は、共有名義の不動産をスムーズに売却したいという場合に役立ちます。
具体的には、不動産の所在地を管轄する地方裁判所に申し立てを行えば、所在不明の共有者の持分を取得することができます。これにより、不在者の影響を排除し、他の共有者による効率的な管理や売却が可能になります。
取得金額(買取金額)は裁判所が定めますので、実際の金銭の授受は当該金額の法務局へ供託になります。
今回のご相談でもこの制度利用が考えられますが、利用にあたり供託金(取得金額)を用意しなければなりません。最終的に売却を予定しているのであれば、次の所在等不明共有者持分譲渡制度の利用が適切でしょう。
なお、この制度を利用するためには、適切な書類や証拠を揃える必要があるため、弁護士に相談することをお勧めします。
この手続は、共有状態にある土地や建物といった不動産について、共有者が、他の 共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない場合に、裁判所に対 し、当該所在等不明共有者の持分を申立人に取得させる旨の裁判を求める手続です。 また、申立人は、同手続の中で裁判所が所在等不明共有者の持分の時価相当額を考慮して定める金額を供託することになり、所在等不明共有者は、その供託された金額の還付を請求することができるため、申立人においては、持分価格に関する資料の提出と供託書原本の保管が必要となります。 なお、所在等不明共有者の持分が共同相続人間で遺産分割をすべき相続財産に属す る場合には、相続開始から10年以上経過していることが必要です(民法262条の 2第3項)。
出典:裁判所 所在等不明共有者持分取得申立てについて
所在等不明共有者持分譲渡制度
所在等不明共有者持分譲渡制度は、共同名義の不動産を所有しているが、その持分を放棄または譲渡したい場合に利用される制度です。この制度を活用することで、所在不明の共有者の持分を他の共有者が取得できる仕組みになっています。
具体的には、対象となる不動産の所在地を管轄する地方裁判所に申し立てを行い、必要な条件を満たすことで手続きを進めることが可能です。この制度利用により、共有者間のトラブルを防ぎ、円滑に不動産売却を進めることができます。
今回のご質問では、唯一この制度が利用できるかもしれませんが、しかし、現実的には時間と費用も掛かり、手続きもかなり難しいため、実際に利用したいときや手続きには専門的な知識が必要なため、法律家のサポートを受けることをお勧めいたします。
この手続は、共有状態にある土地や建物といった不動産について、共有者が、他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない場合に、裁判所に対し、所在等不明共有者以外の共有者全員が第三者に対して持分全部を譲渡することを条件に、所在等不明共有者の持分を当該第三者に譲渡する権限を申立人に与える旨の裁判を求める手続です。 また、申立人は、同手続の中で、裁判所が不動産全体の時価相当額及び所在等不明共有者の持分の割合等を考慮して定める金額を供託することになり、所在等不明共有者は、その供託された金額の支払を請求することができるため、申立人においては、不動産価格に関する資料の提出と供託書原本の保管が必要となります。 なお、所在等不明共有者の持分が共同相続人間で遺産分割をすべき相続財産に属する 場合には、相続開始から10年以上経過していることが必要です(民法262条の3第2項)。
出典:裁判所 所在等不明共有者持分譲渡の権限付与の申立てについて
所在等不明共有者との関係解消の裁判手続き
所在等不明共有者との関係を解消するためには、裁判手続きが必要です。まず、所在の確認を行います。それでも見つからない場合、相手方に対して失踪宣告を申請することが考えられます。
裁判所での手続きでは、財産管理人の選任を求めることができます。この管理人は不動産の管理と売却を行うことができます。万が一、所在不明の共有者が見つからなくとも、裁判を通じて有効な手続きを踏むことで、関係を解消し不動産売却が可能になります。
地方裁判所への申し立て
地方裁判所への申し立ては、所在等不明共有者との関係解消の第一歩です。まず、申立人として自身がどのような権利を持っているのか明確にし、必要な書類を用意します。
申立てには、共有不動産の基本情報や、既に行った調査結果を含めると良いでしょう。また、所在不明となっている共有者に関する詳細も記載し、裁判所が判断できる材料を提供します。手続きに不明点がある場合は、専門家のアドバイスを受ける事をお勧めします。
裁判所による公告
裁判所による公告は、所在等不明共有者がいる場合に重要な手続きです。この公告は、裁判所が公式にその共有者の所在を探すために行います。公告を通じて、一定期間内に所在の確認を試みることができます。
公告が無事に行われると、所在不明の共有者の権利が喪失する可能性があるため、注意が必要です。この手続きによって、未来の不動産売却がスムーズに進む事が期待できます。しっかりと手続きを行い、関係解消を目指しましょう。
供託金の納付
不動産売却に際し、所在等不明共有者の持分を取得するための手続きとして、供託金の納付が重要です。特に、共有者が行方不明の場合、売却に関しての問題発生が多くなります。
供託金の納付で、裁判所に対して問題の解決を求めることが可能です。これにより、不明者の持分を考慮しつつ、売却手続きを進めることができます。
手続きには専門知識が求められるため、弁護士や司法書士のサポートを受けることをお勧めいたします。正しい手続きを踏めば、スムーズな不動産売却が実現可能となります。
登記手続き
登記手続きは、不動産売却を進める上で非常に重要なプロセスです。所有者が不明である場合、まずは不在者財産管理人の選任を求める手続きを行います。この管理人が代わりに登記を行うことができます。
次に、裁判所から与えられた権限を持つ管理人は、所有権の移転登記を行い、設置された新たな権利者名義に不動産登記ができます。これにより、物件の売却が法的に視覚化され、買主との契約がスムーズに進行できます。
まとめ
所有者が行方不明の場合でも、不動産の売却は可能です。まず、不在者財産管理人制度を利用して代理人を立てることで、売却手続きがスムーズに進みます。
また、失踪宣告を行うことで、合法的に所有権を移転する方法もあります。
さらに、所在等不明共有者持分取得制度や譲渡制度の活用で、共同所有の不動産についても適切に対処できます。これらの手続きを理解し、適切に行うことが重要です。
いずれの制度を利用するかは、目的、効果、費用、期間等に照らして適切に選択する必要がありますが、今回のご質問では時間的な制約があるため、制度利用するとしてもかなり制約がかかる事を考え、時間的に利用不可になることも踏まえなければならないでしょう。
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